新型コロナ感染症の流行により、衛生に気を遣うことが日常のルーティンとなりました。
私たちが手を洗う回数は以前より確実に増えたと思います。
しかし手洗いの回数が非常に多かったり、手洗いにかける時間がとても長かったりして、そのために日常生活・社会生活に支障が出るようなら、強迫性障害という心の病気にかかってしまったのかもしれません。
このコラムでは、強迫性障害への認知行動療法を用いたカウンセリングについて、書物の紹介という形で説明していきます。まずはこの病気について簡単にご説明しましょう。
強迫性障害にかかったのかもと思ったらY-BOCSで確認してみましょう
強迫性障害は不安障害の一種です。強迫観念と、強迫行為から成り立っています。
強迫観念とは、頭にしつこくこびりついて離れない考えのことで、この病気にかかった方は自分ではばかばかしいと思いながらも繰り返し長時間、ある考えについて思いをめぐらせてしまいます。
よくある強迫観念の例は下のようなものです。
・不注意で他人に危害を加えてしまうのではないかと怖くなる
・汚染されたために病気になってしまうのではないかと恐れる
・事故を起こすかもしれないという思いが頭から離れない
強迫行為とは、切羽詰まった不安から行う行動のことです。例えば・・・
・外出前に何度も玄関の鍵を確かめる
・トイレの後、たくさんのハンドソープを使い長時間をかけてていねいに手を洗う
・道を歩いていて人にぶつかりケガをさせてしまうのではないかと心配になり外出が困難になる
・車の運転をしていて人を轢いたのではないかと不安になり来た道を何度も戻って確認する
(資料1から引用)
当施設では強迫性障害がある方に認知行動療法を用いたカウンセリングを行っています。カウンセリングの初回では、Y-BOCS(資料2)というアンケートに記入していただき、どんな強迫観念と強迫行為があるかを確認することから始めます。
Y-BOCSはネット上で公開されており、どなたでも利用することができます。
(1)厚生労働省ホームページ「知ることから始めよう みんなのメンタルヘルス 強迫性障害」
(2)Y-BOCS: 自己記入式 YALE-BROWN 強迫観念・強迫行為評価スケール 日本語版
「不安でたまらない人たちへ やっかいで病的な癖を直す」 ジェフリー・M・シュウォーツ著 草思社
強迫性障害は発症には、その方の考え方、ストレス、生育歴などが関係していると考えられていますが、原因ははっきりわかっていないようです。この本の裏表紙には強迫性障害の方の脳のPETスキャンの画像がカラーで示されています。脳が活発に活動している様子がわかります。
カウンセリングでは、相談にいらした方にこの資料をお見せして、ご自分を責めないようにとお伝えし、カウンセリング導入への足がかりとしています。
「強迫症を治す 不安とこだわりからの解放」 亀井士郎・松永寿人 GS幻冬舎新書
強迫性障害にかかると強迫観念によって不安が起き、患者さんはその不安を解消しようと強迫行動を繰り返し行います。しかし不安がなくなるのは一時だけで、強迫行動は繰り返され、次第にエスカレートしていきます。
強迫性障害へのカウンセリングでは、まずは強迫性障害のメカニズムを理解していただきます。そして不安を解消する行動を徐々に減らし、強迫観念を弱めていく具体的なプランをご一緒に考えます。
現在、強迫性障害に悩んでいる方はこの部分を読んだだけで「恐ろしい」「とても無理」とお感じになるかもしれません。不安があまりに強いとカウンセリングに取り組むことが難しいので、カウンセリング開始時には薬によって最大限に不安が軽減されていることがとても重要です。
この本は精神科医自らが強迫性障害にかかり認知行動療法によって回復した体験を記したものですが、著者も薬のサポートが必要であることを強調しています。服薬に不安を感じている方にぜひ読んでいただきたい本です。
「やさしくわかる強迫性障害」 原井宏明 岡嶋美代 ナツメ社
強迫観念によって起きる不安を解消するために強迫行動を取る、という一連のサイクルが強迫性障害の方の日常に起きているわけですが、カウンセリングが進んで強迫行動を少しずつ減らしていくことができてきたら、次はエクスポージャーに取り組んでいただきます。
エクスポージャーとは、恐怖や不快感を呼び起こす体験を敢えて自ら行っていくことをいいます。この体験を重ねることによって、恐怖や不快のタネだと思っていたことが、そうではないのだと打ち消されてて行くわけです。例えば・・・
【強迫観念】トイレ後の自分の手はばい菌だらけで汚い!!
【強迫行動】長時間・何回も手を洗う
↓↓
【エクスポージャー】トイレ後、手を洗わずに過ごす(=ばい菌に慣れる)
強迫性障害の方にとって、エクスポージャーはとてつもなく怖い体験と受け取られると思います。そのような方にどうやってエクスポージャーに取り組んでいただくかが、カウンセラーの腕の見せ所だと思います(まだまだですが・・・)
こちらの本では、強迫性障害の病理、行動療法を用いた治療のメカニズム、エクスポージャーの具体例など、豊富な情報が多くの図や挿絵とともに一般の方向けにやさしく解説されており、参考になることが多いでしょう。
さいごに
強迫性障害のカウンセリングについて、非常に大雑把ではありますがご説明しました。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
強迫観念をのさばらしておけば、やがて生活全体が強迫行動をに乗っ取られてしまい、ご自身が思うような人生が生きられなくなってしまうでしょう。カウンセリングでは、ご来談者様が自ら行動を変えていけるよう、お手伝いしています。ご自身がどうなりたいのかを大切にしながらカウンセリングを進めてまいります。
一方で病気で悩む方がこの病気のメカニズムについてよく知ることはとても重要です。上に掲げた本をお読みになることが、病気の理解に役立ちましたら幸いです。
ところで竹田カウンセラーは、米国ベック研究所の「不安の認知行動療法」を受講しています。(下に修了証をupしました)また国内の専門家による指導を受けています。強迫性障害に困ったら、ぜひご相談ください。
ご一緒に考えながらより快適な生活に向かっていきましょう。
(竹田)