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知能検査WISC/WAISで低いところを上げることはできるのでしょうか?

 

当施設では、知能検査を受けていただくことができます。

児童用のWISC-Ⅳ(50ヶ月~1611ヶ月までの方が対象)、成人用のWAIS-Ⅳ(16歳以上の方が対象です)をご用意しています。

検査の結果はレポートとともにご報告を差し上げていますが、その時必ずといってよいくらい「数値が低くなった部分を引き上げる方法を教えてほしい」というご質問を受けます。

 

このコラムでは、このご質問へのお答えを考えていきます。

 

WISC/WAISの数値を上げる方法はある?

 WISC/WAISの数値を上げることだけを考えるなら、その方法はあると言えます。

ネット上には、WISC/WAISで出題されるものと同じような練習問題を見つけることができ、そのような問題をたくさん解けば数値はあがるでしょう。

WISC/WAISの数値を上げられるというトレーニングを提供している民間機関もあります。

 

車の運転や料理が「慣れ」や「経験」によってスキルアップできるように、WISC/WAISの数値も練習次第で多少は上げることはできると思います。

WISC/WAISを再受検する場合は、少なくとも2年の間隔を空けなくてはいけないことになっているのですが、それは「慣れ」の効果によって知能が正確に測れない可能性を踏まえているからです。

 

WISC/WAISの数値が上がれば苦手を克服したことになるのでしょうか?

 WISC/WAISでは「全検査IQ」(一般で言う「知能指数」のことです)とともに、言語理解、知覚推理、ワーキングメモリー、処理速度の4つの指標値が得られます。

これら4つの指標値のうち、処理速度を例にとって考えてみましょう。

 

処理速度が低い場合、子どもであれば、学校で板書を写すのに時間がかかる、漢字を書くことが苦手、などの困り事を抱えている場合が多いです。

 

これらの困り事は、実際には処理速度だけが関与して生じているわけではないと考えられます。

例えば板書を写すには、黒板に書かれた単語や文章を理解するための言葉の力が必要です。

これには言語理解が関わっています。

また板書をノートに写すためには、板書の内容を一旦、文字から音声に変換して記憶する必要があり、これにはワーキングメモリーが関与しています。

 

ですので、言語理解やワーキングメモリーの指標値が高くない場合には、処理速度の数値が”練習”によって上がったからといって、板書を素早く写せることになるとは限らないと考えられます。 

 

 

得意なこと・好きなことに力を注ぎ、それによって苦手なことを補う対応を考えましょう

 処理速度が低く、具体的な形のあるもの(日用生活用品など)を見ることには問題はないけれど、線でできたもの(文字、記号、グラフ、など)を見ることが苦手、という場合もあります。

このような方にとっては、線の集まりをたくさん見て書く”練習”自体がたいへんな苦痛が伴うと考えられます。

処理速度と他の3つの指標値との差が大きい方(他の指標値との差の出現率が15%以下の場合)は、上のような困難が起きていると考えられます。

 

ダメ出しばりしているようで、申し訳ありません。

考え方を変えてみてはどうでしょう。

「好きこそものの上手なれ」という言葉があるように、「得意なこと・好きなことに取り組む」ほうが、「苦手なことに取り組む」よりもずっと簡単で、成果をあげやすいのではないでしょうか。

「得意なこと・好きなこと」がある人は、もうそれだけですごく得をしていると思います。

「得意なこと・好きなことを達成するためであれば、苦手なことにも取り組もう」という気持ちにもなれるからです。

 

たとえば書くことが苦手な子どもでも、大好きな昆虫の飼育のためなら観察日記を書こうと思うことだってあるでしょう。

WISC/WAISで数値が低くなってしまった領域を上げるには」というご質問には、「得意なこと・好きなことに取り組んで苦手なことを補って」とお伝えしています。

さいごに

 WISC/WAISで低い指標値があれば不安になりますし、何とかならないものかという切実なお気持ちになるのは当然です。

日常生活の中で苦手なところを補う具体的な方法をご一緒に考えますので、どうぞご相談ください。

 

多くの方の検査をさせていただき感じるのは、誰しも多かれ少なかれ、凸凹(得意・不得意)があって、それこそがその方の個性を表わしているのではないかということです。

 

お子さんのできているところ、強味にさらに目を向け、その子らしさを伸ばしていくにはどう関わったらよいかを考えていきましょう。

子どもの人生を広い視野で捉え、息の長い応援団になってあげましょう。

 

成人の方なら、すでにご自分の得意なことを生かした仕事についていらっしゃるかもしれません。

困っていることが自分の力だけでは解決できそうもないなら、周囲の理解を求め助けてもらいましょう。

(竹田)