知能検査の結果を見たとき、「処理速度が低いですね」と説明を受けた経験のある方もいるかもしれません。
しかし、その数字は本当に「作業スピード」だけを表しているのでしょうか。
実は、近年の児童用知能検査 WISCの改訂によって、この点が以前よりも明確になってきています。
私たちは日常生活の中で、耳から聞いた情報を覚えたり、目で見た情報を一時的に頭の中に保持したりしています。
たとえば、電話番号を聞いてメモするまで覚えておく、地図を見ながら目的地までの道順を考える、といった場面です。
こうした「情報を一時的に保持しながら使う力」は、ワーキングメモリーと呼ばれます。
以前の児童用知能検査 WISC-Ⅳでは、このワーキングメモリーを測る課題が主に「聞いた情報」を扱うものでした。そのため、耳から入った情報を覚える力は評価できても、目で見た情報を頭の中に保持する力は十分に評価されていませんでした。
ところが、私たちの日常生活では視覚的な記憶も非常に重要です。
たとえば、
・黒板を見てノートに書き写す
・図形の特徴を覚える
・買い物リストを頭の中で思い浮かべる
こうした活動には、視覚情報を一時的に保持する力が欠かせません。
以前の検査では、この視覚的な保持力の弱さが、別の指標である「処理速度」に影響していた可能性があります。
なぜなら、素早く作業するためには、単に手を速く動かせばよいわけではないからです。目で見た情報を短時間覚えておくことや、注意を向け続けることも必要になります。
その結果、「処理速度が低い」と見えていても、実際には視覚的なワーキングメモリーの弱さが背景にあったケースも考えられます。
その後の児童用知能検査 WISC-Ⅴへの改訂では、視覚情報を一時的に保持する力を直接評価する課題が取り入れられました。
これにより、「情報を保持する力」と「素早く処理する力」を以前より区別して捉えられるようになったのです。
たとえるなら、以前は「車の速さ」を測っていたつもりでも、実際にはエンジンの性能と運転技術が混ざって評価されていた状態でした。
改訂後は、それぞれを別々に見ることができるようになったイメージです。
そのため現在の処理速度の指標は、以前よりも純粋に「作業をどれくらい効率よく、自動的に進められるか」を反映しやすくなっています。
もちろん、どんな検査も一つの能力だけを完全に切り分けて測れるわけではありません。
しかし、検査の改訂によって、それぞれの認知特性をより細かく理解できるようになったことは大きな進歩と言えるでしょう。
もし知能検査の結果を見る機会があれば、「処理速度が高い・低い」という数字だけで判断するのではなく、その背景にどのような認知の特徴があるのかに目を向けてみてください。
数字の奥には、その人ならではの学び方や考え方の特徴が隠れているのです。
